GKについて書かれた本を読み返しました。
自分はサッカー経験者ですが、フィールドしかプレーしたことがありません。
そのためサッカー観戦をしていて、『今のプレーでGKは何やってるの?』と思うことがあります。
しかし、GKの原理・原則やテクニックについて知っていることは僅かです。
本書は、サッカーの中でも特殊で重要なポジションであるGKについて、体系立てた理論が書かれています。
現役のGKはもちろん、フィールドプレーヤーのことしか分からないサッカーファンに読んで欲しい内容です。
少しでもGKについて知ることは、深く試合を知るために必要な作業だと思いました。
購入の理由
2018年に出版された本で、今となっては、どこで買ったのか?記憶にありません。
恐らく書店に並んでいるのを観て、衝動買いしたと思います。
ロシアW杯をテレビで観ていて、GKのプレーについて知りたくなったことは覚えています。
GKのプレーの良し悪しを語る材料を、何も持っていないことに気づいたのです。
その一助として買ったのだと思います。
対象読者
サッカーのポジションの一つであるGK(ゴールキーパー)について書かれています。
若い年代の方であれば、少年サッカーを含めると、サッカーの競技経験がある人は、少なくないと思います。
一方で、GKの競技経験がある人は、少ないのではないでしょうか?
自分もその一人で、ずっとフィールドプレーヤーでした。
GKのテクニックや原理・原則が体系立てて書かれているので、実際にGKをプレーしている方には、スゴく役立つと思います。(もしかしたら当たり前の知識なのかもしれませんが…)
それ以上に、自分のようなフィールドでしかプレーしたことがない方にこそ読んで欲しいです。
サッカーのプレー経験がなくても、サッカーのルールや試合の流れについての知識があれば、新たな視点が増えることは間違いありません。
スタジアム、テレビに関わらず、『今のプレーでGKは何やってるの?』と思ったことがあれば、読む価値があると思いました。
またGKのテクニックや原理に書かれた本は、いくつかあります。
それらの類書との違いは、読んだことのある本が少ないため、分かりません。
ポイント1: GKに関する体系立てた理論
フィールドプレーヤーしか経験したことのない人からすると、GKに関する知識は皆無に等しいと思います。
自分も『ボールとゴールの中心を結んだ線上に立つ』、『軽くジャンプしてタイミングを取る』、『横に飛ぶより斜めに飛ぶ』くらいの知識しかありませんでした。
あとは『このクロスなら飛び出してくるだろう』、『このシュートなら防げるだろう』という、何となくの相場観でGKを観ていました。
本書では、GKのプレーを細かく細分化し、体系立てて解説しています。
GKが試合中に行うプレーについて、『ゴールディフェンス』、『スペースディフェンス』、『オフェンスアクション』の3つに分けています。
この言葉を聞いて、試合の流れを思い返すと、当たり前に感じるかもしれません。
しかし『3つのアクションがある』ということは、何となく感じていたことで、『知識』として持っていたものではありません。
このようにGKのプレーを観ていて漠然と感じていたことが、非常に分かりやすく整理されています。
ボールの位置と角度をどう整理するのか?、各状況でどんな姿勢でプレーするのか?、ステップの踏み方や手の出し方はどうするのか?など…
フィールドプレーヤーの経験しかない自分には、目から鱗が落ちる思いでした。
特に驚いたのは、『プレジャンプ』についての記述でした。
それ(プレジャンプ)に関しては、私がドイツにいるときにブンデスリーガのアカデミーGKコーチが大学と協力して実験を行ったのですが、プレジャンプによってセービングの距離が伸びるという、優位的な差はありませんでした。
自分が持っていた超浅い知識では、『プレジャンプは必ずする動作』でした。
そのため『プレジャンプは無くてもいい』という考えは、衝撃でした。
ポイント2: 進化するGK理論
チーム戦術やグループ戦術、個人戦術については、進化・アップデートのスピードが速いですが、それを紹介する媒体が多いという印象です。
新たなサッカー用語が採り入れられ、驚くほど速く市民権を得ています。
一方、GKに関する理論はと言うと、チーム戦術を担う1人として、GKの重要性は語られますが、進化・アップデートを知る機会は少ないと感じています。
本書の肝とも言えるドイツのGKの本質部分を引用します。
ドイツのGKは本当にアグレッシブ。GKコーチも、ボールへ向かうプレーについて、「できるだけ早く触りに行け!」「自分からアクションを起こせ!」と指導します。
GKのプレーは、ほとんど受け身のプレーだろうと思っていましたが、近年では考え方が変わってきているようです。
チーム戦術として、最終ラインを高くし、コンパクトな陣形で戦うチームが増えています。
すると広大なスペースを守れるGKが求められ、スペースディフェンスが重要になっています。
ペナルティーエリアから飛び出す頻度が高くなります。
また年々ビルドアップへの参加も重要視されるようになり、足元の技術(=オフェンスアクション)が求められています。
ゴール前に陣取って、ゴールを守るだけでは、通用しなくなっています。
こういった流れは、理解しているつもりでした。
しかしスペースディフェンスの重要性について、別の観点から語られています。
失点はゴールディフェンスで喫する場面がほとんどですが、決定的なピンチに至る前にスペースディフェンスが成功すれば、ゴールディフェンスを行う場面そのものが減ります。これも大事なポイントです。
スペースディフェンスは、ピンチを未然に防ぐだけではなく、カウンター機会の創出という意味でもメリットが大きいのです。
フィールドプレーヤー10人の戦術ありきで、GKの理論が進化しているだけではないように感じました。
フィールドプレーヤーの事情とは別に、失点のリスクを減らし、得点の起点となるというサッカーの本質を追及して進化・アップデートしているように観えました。
最も印象的だった考え方の進化は、クロスへの対応でした。
以前のポジショニングの考えは、どのような状況においても、まずはゴールを守れる位置に立ち、クロスに行ける時は飛び出す、というイメージでした。ところが、現代の考え方では、状況に応じてクロスを捕るスペースに立ち、危険ならボールに戻ってセービングします。つまり、昔はゴール→スペースの順。今はスペース→ゴールの順。
サイドでクロスの動きからシュートを打ってゴールになることが稀にあります。
「GK早まって動き過ぎだろ」と思っていましたが、クロスに対応するポジションをとるのがスタンダードだとは知りませんでした。
つまり自分は従前のゴール→スペースの考えしか持っていませんでした。
同じような認識の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
少しでもGKに関する知識を持つことは、サッカーの視点を増やすことになると痛感しました。
では、『どうやって進化するGK理論をキャッチアップするのか?』が、次の課題になり、その答えを探したいと思いました。
本書を読んで感じたこと: GKを知ること=サッカーファンへの課題
ドイツが『GK大国』であることに異論はないかと思います。
サッカーシーンの中心地の1つであるという理由もあるかもしれませんが、昔から名GKを輩出し続けています。
また『日本サッカーが強くなるためには、優れたGKが必須である』というアイディアも、定理と捉えてもいいでしょう。
ではドイツと日本のGK事情を比較した場合に、何が違っていて、何をしてその差を埋めて行くのか?という話になります。
それについては、序章で答えがあります。
なぜ、この国は『GK大国』なのでしょうか?(中略)人気という土壌があり、なおかつ環境をきちんと整備していることは、ドイツが『GK大国』である最大の理由でしょう。
また、最終章にもGKの人気に関する記述があります。
各年代のサッカー大会でも、得点王、MVPの他にベストゴールキーパー賞という賞が必ずあり、その大会で活躍したGKは皆の前で表彰されています。(中略) このように小さい年代の子ども達が「GKって重要なポジションなんだ」、「GKってカッコいいんだ」と感じる場面が、明らかに日本より多いと思います。
GK育成の環境を整えること以上に、GKが人気のポジションになることの難易度が高いと、個人的には感じました。
自身の少年時代を振り返っても、小学生の低学年では『GKやりたい』というチームメイトの数は少なくなかったです。
GKグローブがサッカーバッグに入っている子も、珍しくなかった記憶です。
しかし学年が上がるにつれて、そういったチームメイトは少なくなりました。
大人が楽しむ趣味レベルのサッカーであれば、GKは重宝される人材だと思います。
ビッグセーブでチームを救い、言葉通り『神』になれますが、失点シーンを切り取られネガティブな印象を持たれる割合の方が多い気がします。
批判の多くは、フィールドプレーヤー目線の『何となく感じる相場観』に基づいていて、『失点シーンには、どんな問題があって、何を改善するといいのか?』という視点は非常に希少です。
そんな環境で『GKをやりたい』と思い続ける子が増え続けるのは、難しいでしょう。
それを強く感じた一節がありました。
私が考えるいちばん大きなミスとは、出るのか出ないのか、迷って結局何もしないこと。「かぶった」「出たのに触れなかった」と、そればかり強く言いすぎると、スペースディフェンスが何もできないGKになってしまいます。それはいちばん大きなマイナスです。
強気のプレーを選択をして、ミスが出てしまっても、強気の選択をしたことに目を向ける必要があるように感じました。
GKを過剰に持ち上げろとは言いませんが、しっかりとした知識に基づいた、建設的な意見が必要でしょう。
GKのステータスを上げる取り組みは、大人のサッカーファンへの課題なのではないでしょうか?
GKのプレーに対する知識を増やすこと、ネガティブな感情を抑え、ポジティブなプレーに着目することから始めたくなりました。
まとめ
GKについて書かれた、『ドイツ式GK技術革新』という本を読み返しました。
フィールドプレーヤーしか経験のない自分にとって、新たな知識ばかりで、目から鱗が落ちる思いでした。
サッカー観戦をしていて、『今のプレーでGKは何やってるの?』と思うこともあるので、少しでもGKについて知ることは、深く試合を知るために必要な作業だと思いました。
GKについての理論も、すごいスピードで進化・アップデートしていると思います。
2018年に出版された本ですが、まだまだ知らなければいけない理論が詰まっています。
ドイツと日本のGK事情を読むと、育成環境の違い以上に、GKの人気・ステータスに大きな差があるように感じました。
失点シーンを切り取られた批判が多く、ビッグセーブで文字通り『神』になる機会が少ないでしょう。
大人のサッカーファンがポジティブな気持ちで、建設的な批評をすることが、GKのステータスを上げることに繋がるでしょう。
GKの重要性を自然と説く環境作りが、日本サッカーのためにも必要だと感じました。
2020年現在は若くて有望なGKが多いと思いますが、より競争力の高いGKを輩出するためにも、サッカーファンができることはあるのではないでしょうか?
yas-miki(@yas-miki)