
湘南ベルマーレが発行している『縦の美学』という本を読み返しました。
湘南スタイルのサッカーを観た衝撃で買った本で、とても重要なことが書かれているように感じます。
どこかで『縦』に入れないと、ゴールに近づかないという当たり前のことを思い出せます。
そして各クラブが、日本サッカーが育成に力を入れる環境で、独自のスタイルを築く面白みがあるでしょう。
Contents
湘南スタイルの衝撃
衝撃の試合でした。
クラブワールドカップで、ヨーロッパや南米のクラブから感じた衝撃に匹敵する試合でした。
その試合は、2014年J2第7節 湘南ベルマーレ@ジェフ千葉です。
試合は、6-0で湘南ベルマーレの圧勝でした。
得点差よりも内容に差があったと感じました。
『湘南スタイル』という言葉は知っていましたが、凄まじい破壊力に心が躍りました。
このジェフ千葉戦は、平畠啓史さんの本でも紹介されています。
この試合の湘南ベルマーレが放つ疾走感は爽快だった。フィールドプレーヤーは10人に決まっているが、縦への攻撃が始まると人がドンドン湧いてきて、12人にも13人にも見えた。
正しく同じ感情で、試合を観ていました。
個人的には、『攻守の切り替え』、『ハードワーク』、『スプリント』がキーワードだと感じました。
特に守備⇒攻撃の切り替えが素晴らしかったです。
それ以降、湘南ベルマーレに興味を持って追うようになりました。(とは言っても、現地観戦は年に2試合ほどですが…)
毎年、レベルアップしているのが分かり、クラブの躍進を観るのが楽しみです。
購入の理由
湘南ベルマーレに興味を持って観ていた時に、湘南ベルマーレのオンラインショップで出会った本です。
最初はトートバッグを探していたのですが、本書も同時に購入しました。
『縦の美学』というタイトルで買ったようなものです。
2013年出版の本ですので、2014年に買った当時は、新鮮な情報が多かったです。
2019年シーズンは、シーズン途中から浮嶋さんが監督に就任しました。
ですので、反町さん、曺さん、浮嶋さんと代々の監督が、著した本になりました。
2020年に再度、読んでみると、登場人物には少し懐かしさがありますが、エッセンスは普遍的なモノだと感じました。
本書は、書店で扱っている本ではないので、湘南ベルマーレのオンラインショップで買いました。
対象読者
サッカークラブである湘南ベルマーレが、自社のオンラインショップでしか売っていない本です。
書いてある内容は、サブタイトルの『湘南ベルマーレが追求するサッカーのスタイルと育成論』のままです。
全編にわたってサッカー用語が出てきますので、全くサッカーの知識がない方には向かない本です。
ですが、テレビやスタジアムでサッカーを観て、大まかなルールや試合の流れが分かる方であれば、十分過ぎるくらい理解できる内容です。
個人的には、サッカーに興味を持ち始めた方が、「こういうサッカーもあるのか…」と参考になる本だと感じました。
類書としては、新書の『低予算でもなぜ強い? ~湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地~』が挙げられます。
登場人物がほぼ同じで、話の方向性も同じですが、新書なので分かりやすい言葉です。
またフロントやマーケティングの話も出てきますので、対象範囲はずいぶんと広いです。
本書は、ピッチ上のサッカーの話しか出てきませんが、そこを深堀りしています。
2冊をセットで読むと、面白いです。
ポイント1: 縦のポゼッションという新しいワード
2010年代のJリーグは、ポゼッションサッカーが評価されがちだったと感じています。
ポゼッションサッカーだけが評価されていた訳ではありませんが、そちらに注目が集まっていた印象です。
仮にシーズン序盤の敗戦時が顕著です。
ポゼッションサッカーを志向するクラブは、『ポゼッションのスタイル構築には、時間がかかるから』という意見・エクスキューズが見られます。
一方、ポゼッションサッカーではないサッカーを志向するクラブは、容赦ない批判に晒されます。
同じ1敗、勝ち点0ですが、ファン・サポーターの見方は、異なるように感じます。
自分もポゼッションサッカーの良さは理解しているだけに、湘南ベルマーレの縦に速いサッカーに衝撃を受けました。
本書のタイトルでも登場するのが、『縦』という言葉で、先ほど引用した平畠さんも、『縦の攻撃』という言葉を使っています。
また本書では、『縦のポゼッション』という新しいワードを使っています。
縦にボールを入れ、ボールホルダーを追い越し、『縦に二対一をつくる』のが、その意味だと読み取りました。
自分にとって最も心に残ったのは、反町さんの言葉です。
あえて厳しいエリアに入れろ。厳しいエリア、縦に入れなければ、いまのサッカーは崩れない。
皆さんのクラブは、各駅停車の横パスが多いでしょうか?
自分に置き換えると、ガンバ大阪の調子が悪い時は、縦パスが入らないですし、2019年シーズンまではジェフ千葉も同じでした。
無駄とも思える横パスが続く時に、常に反町さんの言葉が蘇ります。
もしかすると、自分のサッカー観戦には、一生ついてまわる言葉なのかもしれません。
それくらい重要な言葉に感じています。
本書では、戒めのように縦への意識付けがされています。
ところが選手はいつしか、ボールを失わないことに意識を傾けるようになり、バックパスも増えていく。ゴールを奪うためにあるはずのパスワークはしばしば相手の体力を奪う目的へとすり替わる。
自陣でいくら繋いでもゴールにはならないし、仮に相手を走らせて体力を消耗させることができたとしても、相手の体力を奪うなんて項目はサッカーにはない。
パスを回して優越感に浸ったところで何も起こらない。
かなり厳しい言葉を使っていますが、サッカーの真理ではないでしょうか?
ポゼッションサッカーで成功しているチームは、常に『最終ラインの裏』という選択肢があるように感じます。
『最終ラインの裏』がダメだから、次は『バイタルエリア』、それもダメだから『横パス・バックパスで作り直す』というサイクルでしょう。
常にゴールの可能性が高い縦パスが入る脅威が、ポゼッションサッカーの肝だと考えています。
そう考えると『縦のポゼッション』というワードは、非常に分かりやすく、使いやすい言葉だと思います。
ポイント2: 『ベルマーレ発、世界行き』というチケット
日本サッカーを模索する動きとともに、育成により力を入れる動きもあると思います。
本書では、第2章がベルマーレフットボールアカデミーの紹介になっていて、当時のダイレクター、浮嶋さんのパートになっています。
ライターの方の意図なのか?このパートだけ、ですます調になっています。
フットサルの技術を導入しているのは、とても面白いと感じました。
Jリーグは、2019年よりホームグロウン制度を導入しました。
ホームグロウン制度の記述を引用します。
①ホームグロウン選手の定義
12歳の誕生日を迎える年度から21歳の誕生日を迎える年度までの期間において、特定のJクラブの第1種、第2種、第3種又は第4種チームに登録された期間(以下、本条において「育成期間」という。)の合計日数が990日(Jリーグの3シーズンに相当する期間)以上である選手を、本条において当該Jクラブのホームグロウン選手という。②ホームグロウン選手の登録義務
Jクラブの第1種チームは、当該シーズンの初回の登録ウインドーの終了日(以下、「カウント基準日」という。)において、次に定める人数以上のホームグロウン選手を登録していなければならない。
この制度に促されるのはもちろん、育成に力を入れているクラブがほとんどだと思います。
ファン・サポーターとしても、自クラブの下部組織出身の選手を大事にしています。
また年々、選手の海外移籍が当たり前になり、優勝争いをするクラブでも、有力な選手を手元に置き続けることが難しくなっているでしょう。
そのためトップチームであっても、手元の選手を、どう輝かせるか?という課題があるように見えます。
最多のJリーグクラブを抱える神奈川県の中で、湘南ベルマーレの立ち位置は難しいようですが、とても力になる言葉が載っていました。
目指すところは、他のクラブにはない価値観を持った、自力で立つことのできるフットボールクラブです。そのうえで私たちは育成に力を注いできました。誰もが知っているような有名な選手はいません。いるわけがないんです。彼らはここから有名になるのですから。
「子どもたちは教え方次第で伸びる。だから遠くまで探しに行く必要はない」。オサスナは強豪クラブではありませんが、しかし現実として、そのように地域に根差した手法でリーガ・エスパニョーラという欧州のトップリーグで戦い続けている。
クラブとして、セールスポイントにもなる、『おらが街の選手』を手にすることにもなります。
遠藤航選手のような『ベルマーレ発、世界行き』というチケットが認知されれば、湘南ベルマーレの立ち位置も変わってくるように感じました。
自国開催でワールドカップ優勝を果たしたフランスのエメ・ジャケさんは、30年に渡る努力の成果で優勝できたと語っています。
そんな長期ビジョンの物語が、『縦』というキーワードで、湘南で始まっていることを感じました。
本書を読んで感じたこと: 日本サッカーに幅を持たせる
この記事を書いている2020年は、Jリーグ開幕から27年、フランスワールドカップから22年経っています。
諸外国(特に欧州と南米)から学ぶ段階から、日本独自のサッカーを積み上げる段階に移っていると思います。
以前、NHKの番組で、フランスと南アフリカで監督を務めた岡田さんとロシアで監督を務めた西野さんの対談を見ました。
『日本人の監督はワールドカップに出たことないって言われるけど、最初の1が無ければ、永遠にゼロ』ということを仰っていました。
2020年現在、森保さんがA代表と五輪世代の代表の監督を兼務しているのは、日本人指導者の底上げという意味合いもあると思います。
『日本人の良さは日本人が一番知っている』、『外から見た(外国人)方が日本人の良さに気づく』どちらの意見もあります。
大前提は、『日本人の良さとは何か?』、ひいては『日本サッカーはどこに向かうか?』でしょう。
この文脈の中で、本書はボトムアップの考え方を提示しています。
いま、「日本らしさ」、「日本人らしさ」の追求が再び叫ばれているのは、どこかのコピーをしているだけではトップレベルにはなれないと再確認したからではないでしょうか。各クラブが日本人らしさを求めていかなければいけない時代となり、ひいては「私のクラブのアイデンティティ」をそれぞれに確立することが、日本人らしさに繋がっていくと考えます。ベルマーレのアイデンティティーは本書のタイトルととおり、「縦」です。
サッカー協会が主導権を持って、日本サッカーの方向性を提示するトップダウンの方法があります。
本書ではドイツサッカーを例に挙げています。
DBF(ドイツサッカー連盟)の本気のほどは、自ら主導しブンデスリーガの下部組織に4バック(フィアラーケッテ)を義務付け、それまで主流だったリベロを置く3バックを排したことにも顕著だろう。
しかし(学校も含めて)各クラブが、それぞれの取組みをして、成功したエッセンスを広めるボトムアップの方法もあります。
前述の岡田さんのFC今治での取組みは、ボトムアップになるでしょう。
トップダウンとボトムアップ、どちらが正解でしょうか?
恐らく答えはないと思います。
ただポゼッションに取り組みクラブが多い中で、縦に速いサッカーを志向する価値は、非常に高いと感じます。
試合に勝つために、縦に速いサッカーを選んだ訳ですが、日本サッカーを概観すると、とても面白いです。
同じ山を違う道から登っているように見えます。
2019年シーズンの途中から、結果が付いてこない印象ですが、湘南スタイルの進化を追う面白み・価値はあると思います。
まとめ
湘南ベルマーレが発行している『縦の美学』という本を読み返しました。
湘南スタイルのサッカーを観た衝撃で買った本で、読んでから6年が経っていますが、とても重要なことが書かれているように感じます。
ショートパスを細かくつなぐポゼッションサッカーとは異なる『縦』に速いサッカーも、サッカーの1つの形です。
どこかで『縦』に入れないと、ゴールに近づかないという当たり前のことを思い出せます。
おそらく自分がサッカー観戦する際に、頭に置いておく必要がある考え方です。
各クラブが、日本サッカーが育成に力を入れる環境で、独自のスタイルを築く面白みがあるでしょう。
定期的に動向を追いたいクラブです。
yas-miki(@yas-miki)