
最近『アナリシス・アイ』という本を読みました。
サッカーの戦術についての本を読むのは久しぶりで、ピッチ上で起きることについて考えさせられることが多い内容でした。
ピッチ上を端的に表す言葉が多く、とても分かりやすいと感じました。
誰かの受け売りではない、自分だけのサッカー観を育てる礎になると思います。
本書の特徴やポイントだと思ったこと、感想を紹介します。
Contents
購入の経緯
Amazonのサッカー関連本を『アマゾンおすすめ商品』順で並べて、定期的に新しい本をチェックしています。
そのチェックしていた際に本書を見つけて、久しぶりにサッカー戦術の本を読みたくなりました。
ブロガーが書く戦術というのは珍しい本だと思いました。
10年くらい前に、『サッカースカウティングレポート』という本を読みました。
サッカーを『観る眼』という言葉に感銘を受け、戦術にもポイントを置いてサッカー観戦をしてきました。
そして自分の眼を鍛えるために、戦術の本をあまり読まないようにしてきました。
情報をインプットすることは大事ですが、受け売りの知識ではなく、自分で考えることを大事にしています。
○○という戦術についての本ではなく、『戦術分析』について書かれていることに興味がありました。
本書の対象読者
サッカーの試合で起きていることを文字で伝えるという作業は、なかなか難しいです。
自分も過去に観戦した試合の戦術について、感想を書いていました。
視覚の情報を文字にするのに苦労しましたし、読んでくれた方に伝わった気がしなかったです。
この本を読むと、試合を観ながら普段考えていることが言語化されているので、知識の整理・棚卸しができました。
また図解が多く、新書なので分かりやすい言葉です。
分かりやすい言葉を使いながら、ややマニアックな戦術を体系化しているのが、素晴らしいです。
戦術について書かれた類書に比べて、群を抜いていると思います。
しかしフォーメーションのパターンや各ポジションの役割といった多少のサッカーの知識がないと、スラスラ読めないと思います。
全くのサッカー初心者というより、戦術に興味を持ち始めた初心者に向けた本だと感じました。
バスケットボールに於いて、同様の位置付けにある本を読んだことがあります。
しかしバスケットボールの知識がなく、専門用語の連続で挫折しました。
同じことが本書でも言えると思いますので、ある程度のサッカーの知識は必要です。
本書では、戦術面からサッカーを観る基本が網羅されているので、一通りの知識が手に入ります。
逆に言うと、コアな人には新しい知識は少ないですし、新たな戦術を求めている人には向かない内容です。
ポイント1: サッカーの試合を抽象化する言葉
戦術面を重視して試合を観ることが好きな人は少なくないです。
そして多くの人にとって、90分のピッチ上で起きることを、頭の中でしっかり整理することは難しいと思います。
この本には、頭の中にある曖昧な思考を整理できる言葉が多いと感じました。
特に感銘を受けたのが、この一節です。
このように、ゴールを目指す、守る上で、両チームが「時間とスペース」をめぐって争い続けるのが、サッカーというゲームです。
自分が何となく感じていたサッカーの本質を捉えた言葉にしてくれたと感じました。
この分かりやすい言葉で抽象化することについて、思い出した言葉がありました。
人間は、この「抽象化」によって、より効率的に生きたり、多くの発明を生み出したりなど、文明を進化させてきています。「抽象化」は、発明の母なのです。
抽象化した言葉によって、サッカー観をより広げ、より深めることができます。
本書の端々に「サッカーとは、どんなゲームなのか?」について学ぶべき言葉があります。
ピッチ上の出来事を正確に表す抽象的な言葉によって、自分にとって何を重視して観戦するのか?について考えさせられます。
考えることを続ければ、それぞれのサッカー観を作ることができます。
ポイント2: 試合を俯瞰して観る視点
サッカーの試合を流れで観ることに特化しています。
それを示す一節を引用します。
そして、そういう試合では困った時のセットプレーでのみゴールが生まれる、なんてことも世界中でよく起こっています。試合の結果を最も左右するゴールが、偶然性を持って決まることが多いとなると、サッカーの分析というのは、ある意味で困難極まりない作業といえるかもしれません。
文章の受け取り方次第では、セットプレー=偶然性が高いともとれます。
他の本で読んだセットプレーに関する記述を紹介します。
セットプレーは、試合の中のもう一つの試合。そこではゲームのルールも、選手のポジションや役割も、そしてシステムや配置もまったく別のものに変わる。
サッカーの試合を、『セットプレー』と『それ以外=流れ』に分解する意味では、同じこと言っています。
サッカー中継を観ていても、『流れの中のゴールがない』という表現が多く登場します。
どういうわけか日本には、「流れの中から…」という議論があります。セットプレーから2点取って2−0で勝っても、「流れの中からの得点がなかった」と批判されることが多い。でも、勝利に変わりはないし、セットプレーを与えたらゴールを奪われるかもしれないという威圧感があることは大事なことだと思います。
自分は、この意見と同じで、1点の重みは同じなので、必ずしも『流れの中』でゴールを産まなくてもいいと思っています。
この本は『流れ』に特化していて、セットプレーについては語られません。
ゴールチャンス=決定機を作る再現性を観るために、空間的にも、時間的にも俯瞰する視点でサッカーを分析しています。
将棋の羽生善治さんが『年齢を重ねるにつれて大局観を大事にしている』という内容をTVか本で知りました。
大局観を持って、90分の試合を観るという観戦方法を知ることができます。
両チームが組んだ試合のフレームを理解するのは、サッカー観戦の一つの楽しみ方だと思っています。
ポイント3: 戦術分析で何を観ればいいのか?に答える内容
戦術について書かれた本を読んだ経験が少ないです。
少ない経験から言うと、他の本に比べて『試合中に何を観ればいいのか?』についての具体的な記述が多いです。
第2章は実践編~試合分析のフレームワーク~となっています。
『選手の配置図を知る』に始まり、『残り時間とスコアに注意』まで、90分(時には120分)で何を確認して観るのか?を、時系列で紹介しています。
類書に比べ、俯瞰して試合を観る視点が強く、戦術分析するためにすべきことが明快です。
サブタイトルに『戦術分析の方法、教えます』と書かれています。
その言葉に間違いはなく、分析方法の解説が柱になっています。
しかし、この本で得た観戦方法を基に、自分で試合を観ないと知識は深まりません。
本書の冒頭でも、目的が書かれています。
つまり、私のサッカーの観戦方法をヒントとして提供し、ピッチで起きている事象を皆様なりに解釈することで、サッカーをより楽しんでもらう一助になればいいなと考えたのです。
先程も紹介した『サッカースカウティングレポート』では、サッカーを『観る眼』について、こう紹介されています。
やはりレベルの高い試合をスタジアムで数多く観ることが大切です。レベルの高いチームのレベルの高い試合を重ねて観ていけば、より洗練された形、言ってみれば正常な形が目に焼きつきます。
海外サッカーを観るのであれば、スタジアムでたくさんの試合を観ることは非常に難しいです。
日本国内であればJリーグクラブは全国に広まりつつあるので、さほど難しくないかもしれません。
いずれにせよ『試合をたくさん観る』ことが大事だと、自分も感じています。
そして『試合をたくさん観る』ことで、自分なりのサッカー観が出来上がります。
個人的には、サッカーの試合は簡単に分解できないですし、戦術分析に正解はないと思っています。
試合のどこに重きを置いて観るのか?によって、同じ試合を観ていても、感じ方は人それぞれです。
自分オリジナルの注目ポイントを持つことが大切です。
サッカー観戦で戦術というのは、ある種の宗教で正解を探すものでもないと思います。
この本に書かれている手順で試合を観て行けば、戦術について知識のある人になれるでしょう。
本書を読んで感じたこと: 自分のサッカー観を広げ・深めることの大切さ
本書は非常に分かりやすい言葉で、サッカーを戦術という断面で切った本です。
俯瞰することに特化しているので、ある種で異端な内容になっています。
戦術面から観る世界を知ることで、サッカーを楽しむ術が一つ加わると思います。
そういった意味では、サッカー観を広げる一冊です。
しかし試合の楽しみ方もそれぞれで、戦術面を重視して観るのがサッカー通でもありません。
- 選手の閃きやテクニック、ハードワークする姿勢など人間の息づかいが好きな人がいます。
- スタジアムに来る体験が楽しい人もいます。
- 愛するクラブを応援して、1つ1つのプレーに一喜一憂するのが好きな人もいます。
そういった人には、頭でっかちな戦術論は価値がありませんし、つまらないです。
戦術分析を否定するつもりはありませんし、自分も好きなジャンルです。
しかし『戦術はサッカー観戦の視点の1つでしかない』ということは強く思いました。
サッカーを観る上で、『自分が何を大切にしたいのか?』と問う一冊でもあります。
それはサッカー観を深めることになります。
オリジナルのサッカー観とは?
『サッカースカウティングレポート』を読み、戦術の世界に足を踏み入れたと記憶しています。
Jリーグの試合をスタジアムで観ることに価値を見出してきました。
最近はできていませんが、より多くのクラブを観ることがサッカー観を育てると感じました。
自分は戦術のフレームの中でも、『ボランチ周りのスペース』に重きを置いています。
『バイタルエリア』という言葉ともリンクするスペースを、どう使うのか?どう守るのか?の攻防を観ています。
その上で、戦術はチームのフレームで大事ですが、戦術というルール・フレームを『どう裏切るか?』が大事だと思うようになりました。
90分はシステマティックに進み続けませんし、本書で排除したい『偶然性』にこそ価値があると思っています。
まとめ
久しぶりにサッカーの戦術を読みました。
普段の観戦で漠然と思っていたことを見事に言語化しています。
恐らくブロガーという普段から文字にすることに長けた方が書いているからだと思います。
戦術分析の具体的な方法を紹介しているのも珍しいです。
戦術面からサッカーを観るという世界への招待状になり得る本です。
この世界で生きていくには、実際に自分の眼で観て感じることが大事だと思いました。
それぞれの人のサッカー観を深める『きっかけ』になります。
yas-miki(@yas-miki)