サッカー選手、それも日本代表クラスの有名選手によるメンタルの闘病記として読みました。
うつ病の苦しさや辛さの描写がリアルで、追体験をしているように感じました。
それ以上に、家族や医師、チームスタッフ、チームメイト、ファン・サポーターの温かみに感動する内容でした。
果たしてハッピーエンドなのか?分かりませんが、知らなかったサッカーの一面を垣間見える一冊でした。
「アスリートはメンタルが強い」と思い込んでいたのは大きな間違いでした。
我々と同じように、あるいは、我々以上に、精神的なプレッシャーと戦っていることが衝撃的なエピソードで綴られています。
ビジネスパーソンや学生であっても同じことは起こりえると、体調が悪くなる過程も、良くなる過程も、非常に身近な問題だと思いました。
購入のきっかけ
自分は、本屋でサッカー関連の棚を眺めることが好きです。
新たにどんな本が出版されたのか?、どんな種類の本が並べられているのか?を知ることができるからです。
いつもの通り本屋でサッカー関連の棚を眺めていた際に、本書「うつ白」に出会いました。
「サッカー関連の棚であること」と「うつという言葉」がリンクせず、違和感があったことを覚えています。
著者の森崎和幸さん、森崎浩司さんのことは、現役で活躍されていた頃から知っていました。
そして、『オーバートレーニング症候群』や『慢性疲労症候群』で戦線離脱していたことは知っていました。
しかし、それらの言葉が『うつ病』を指していたことは知りませんでした。
自分自身が、うつに悩んだ時期もあったため、サッカーとどのような関係があるのか?興味がわきました。
サッカー選手は、どんな悩みを抱えていて、どう乗り越えたのか?を知りたかったのです。
対象読者
サッカー選手の闘病記として読める本ですので、サッカーの細かい知識は必要ありません。
しかし、Jリーグのチーム名や所属選手名、指導者名が文中に登場します。
全く知らない方にとっては、具体的なシーンを思い浮かべることができない分、読みにくさを感じるかもしれません。
また、病状に関する記述も分かりやすい言葉にしている印象がありますので、メンタルヘルスの細かい知識も必要ありません。
そのため、サッカーファンに限らず、多くの人に読みやすい本という印象です。
『サッカー』と『メンタル』という言葉の組み合わせは、試合でパフォーマンスを発揮するメンタルを備える意味合いが多いはずです。
本書のように『メンタル』が、『メンタルヘルス』の意味合いで使われることは非常に稀です。
メンタルヘルスとサッカーを同時に取り上げた本は少ないのではないでしょうか?
他のスポーツに関する知識は持っていませんが、同様なのかな?と思います。
読んでみて、とても貴重なテーマを扱った名著だと思いました。
まだ読んでいませんが、『うつ病とサッカー 元ドイツ代表GKロベルト・エンケの隠された闘いの記録』という本は、類書になると思います。
ポイント:アスリートはメンタルが強いという誤解
スポーツでメンタルというと、試合でパフォーマンスを発揮するメンタルをイメージしやすいです。
そして、プロ選手、特に日本代表クラスの選手は、メンタルが強いというイメージを持っていました。
しかし、本書を読むと、「プロ選手も1人の人間である」という当たり前のことが、自分の頭から抜け落ちていたことを痛感しました。
本書でも、心に刺さる文章が続きます。
日本では、まだまだアスリートは、強靭な精神力を備えていると思われがちだ。でも、僕らもみんなと何ひとつ変わらない。サッカー選手も他競技のスポーツ選手も、弱さもあれば、不安も抱えている。なかには心の病に苦しんでいるアスリートの人もいるだろう。
毎週のように、結果がすべての試合が続くスケジュールで、監督やフロントという評価者に評価され続ける環境です。
試合で活躍すればメディアやファンから賞賛され、神様のような扱いを受けることもあります。
一方で、活躍できなければ、罪人のように非難されます。
海外ではオウンゴールが殺人事件に発展した例もあります。
1994年7月2日。W杯米国大会で前評判の高かったコロンビアがグループリーグ敗退を喫して間もなく、国内で悲惨な事件が起きた。W杯のグループリーグ第2戦、米国戦でオウンゴールを献上した代表DFのアンドレス・エスコバル選手が、国内第2の都市メデジンの街中で暴漢の凶弾に倒れ、命を落としたのだ。(中略)複数の目撃者の証言では、男の一人が「“自殺点”をありがとう」と言っていたといい、同選手のオウンゴールのことで口論になったらしい。
どちらに転ぶか分からない中でプレーすることは、想像を絶するプレッシャーと戦っていると予想できます。
また、著者は双子で比較されやすく、生まれ育った広島のチームで2人ともプロになった唯一無二の環境で戦っていました。
さらに完璧を求めがちな性格、他人からの評価を気にし過ぎる性格とも自己分析していました。
「完璧主義」や「他人からの評価」は、一般社会で働いている私たちの職場でもイメージしやすいです。
つねに死にたいと思っていた。
この世からいなくなりたいと思っていた。
何より、朝が来るのが怖かった…。
プロ選手のものとは思えない言葉で苦しさを訴えています。
「プロ選手であっても、自分と似た考え方をするのか」と気づきました。
プロサッカーという夢の多い環境も、自分が生活している社会と地続きであるとも感じました。
ポイント:支援を引き出す能力・才能
本書では、どん底の状況から抜け出す過程も詳細に書かれています。
体調はどんな推移をしていたのか?、どんなことを考えていたのか?、近くにいた家族やチームスタッフ、医師は何を感じていたのか?
自分でもイメージしやすく勉強になりました。
チームのファン・サポーターも含めて、とても多くの手厚い支援があったことが紹介されています。
ウォーミングアップをするために、ピッチに飛び出すと、スタンドに掲げられている横断幕に目が留まった 。そこにはこう書かれていた。
「何度でも言うよ、カズおかえり」
外で本書を読んでいたことを後悔するエピソードでした。
とても人間味を感じる描写が多く、感動的でした。
ノンフィクションのヒューマンドラマとしても読めるのかもしれません。
著者が在籍していた間に指揮をとった4人の監督とのエピソードも、それぞれの人柄が出ていて温かい気持ちになりました。
日本代表監督の森保さんには「気づかいの人」という印象を持っていますが、イメージ通りでした。
またミシャことミハイロ・ペトロヴィッチさんのエピソードに心を打たれました。
その足でチームメイトが待つレストランに向かうと、ミシャはみんなにこう言った。
「聞いてくれ。サンフレッチェ広島は、今日、最高の選手を補強したぞ。みんなに紹介しよう。カズと浩司のふたりだ」
チームメイトのみんなは僕らを笑顔で迎えてくれた。そこには、以前と変わらない仲間がいた。チームメイトは、僕らのことを特別な目で見ることもなければ、変に詮索することもなく、以前と変わらぬ態度で接してくれた。このときほど、チームメイトに感謝したことはない。そして、これが回復していく 兆しであり、きっかけになった。
そういった支援を得られたのは、著者の人柄によるものが大きいと感じました。
それを強く感じたのは、著者の主治医の言葉でした。
人に恵まれているということはあったと思います。でも、それはその人の能力でもあるんです。たとえば、同じ監督でも、受容的に接してくれる場合もあれば、そうでない場合もあります。それはその人が醸しだすものによりますので、それも本人の力です。
完璧を求めがちな性格、他人からの評価を気にし過ぎる性格が調子を崩す要因と自己分析していました。
逆に、そういった性格だったから、周りの支援があったのではないか?と思いました。
支援を「引き出した」というと打算的に感じるかもしれませんが、周りの人を動かす力があるのは間違いないでしょう。
関連情報:双極性障害について
森崎浩司さんのパートで書かれている『双極性障害』は、馴染みの薄い言葉かもしれません。
うつ病のように気分や体調が低下することに悩む病気ですが、逆に気分や体調が高揚し過ぎることにも悩む病気です。
うつ病の人の10人に1人は双極性障害とも言われています。
私たちは、だれでも気分のいい日や悪い日があります。何か良いことがあると、ついうきうきして、おしゃべりになったり、逆に悲しいことがあると元気がなくなったりします。 しかし、この文で説明する 「双極性障害」(躁うつ病と呼ばれていましたが、アメリカ精神医学会による国際診断基準である DSM-5 では双極性障害と呼ばれており、我が国でも双極性障害という病名が一般的になりつつあります)は、そういった誰でもあるような気分の浮き沈みを越えて、自分ではコントロールできないほどの激しい躁状態や、苦しくて生きているのがつらいほどのうつ状態を繰り返す、病気のことです。
双極性障害については、下記の本が分かりやすかったです。
メンタルヘルスが身近になってきた一般社会を生きる上でも、役立つ知識が得られます。
yas-miki(@yas-miki)