サッカーのプレー経験や観戦経験はあっても、バスケットボールのプレー経験は無く、戦術もほとんど分からない状態で読み始めました。
なんとなく「最近10年くらいのNBAは、全体的にスコアが高いな」と思っていました。
バスケットボールの本を読んでいても、サッカーとの共通点が多いと感じました。
特に現代戦術の方向性は、かなり近いでしょう。
『ペース&スペース』などの用語で説明されていて、全ては理解できなくてもエッセンスは把握できる内容でした。
『ピック&ロール』を主な切り口として、オフェンスとディフェンスの戦術が解説されています。
自分は、本を読んだとしても、NBAの試合を観ても分からないことだらけです。
そのため、著者のような解説をしてくれる人が欲しくなりました。
Contents
購入のきっかけ
自分は、本屋でサッカー関連の棚を眺めることが好きです。
新たにどんな本が出版されたのか?、どんな種類の本が並べられているのか?を知ることができるからです。
本屋に行った際に、新刊書?コーナーで、たまたま見かけたのが本書です。
たまたまの出会いですが、本書の表紙を見て思ったことは次のとおりです。
- サッカーの試合を自分の視点で観ることが好きなので、『超分析』というタイトルが魅力
- バスケットボールは、サッカーと同じように『流れ』があり、『セットプレー』もあるので、サッカーと共通点が多そう
- 「バスケットボールは100点獲ればスゴイ」という考えでしたので、「100点超えを連発している近年のスコアはなぜ?」
- 本書は、図やイラストが多く、分かりやすそう
これらの直感を解決?理解?するために購入しました。
対象読者
まず前提として、自分はバスケットボールの知識がほとんどありません。
体育の授業でバスケットボールをやったことがあり、テレビ中継を見たこともある。
しかし、本書に書かれているバスケットボール用語や戦術に馴染みはなく、ルールが分かる程度です。
それでも最後まで楽しく読めたので、バスケットボールの知識は少なくても大丈夫だと思います。
類書については、『ボールマンがすべてではない』という本を読んだことがあります。
しかし、基礎知識が少なかったこともり、イメージが掴みにくかった記憶です。
反面、本書は図やイラストで知識不足を補完してくれるので、読みやすかったです。
流石に、本書を読んだからといって、NBAの試合を観ても分からないことだらけです。
しかし、バスケットボールのことを少し分かった気になれました。
ポイント:バスケットボールとサッカーの共通した方向性
ペースアップ
近年NBAのスコアはなぜ上がっているのか?という疑問に対する答えは、いくつか提示されていました。
その中の1つに『ペースアップ』が紹介されていました。
ここ10年間で3ポイントショットの効果的な活用が爆発的に増加した。3ポイントショットと同じく、攻撃のもう1つの新常識、それはペースアップだ。守備を完結してから自らのショットを放つまでの時間が短縮されているため、現代のNBAは極めてアップテンポな展開が繰り広げられている。
- 守備⇒攻撃の切り替えを速くして
- 敵陣に早くボールを運び
- 守備側の陣形が整う前にゴール(=リング)に迫る
という考え方だと理解しました。
サッカーでも同様の考え方をされていますし、現代サッカーのトレンドに非常に近いと言えると感じました。
- 前線から激しくプレスして
- 守備⇒攻撃の切り替えを速くして
- 守備側の陣形が整う前にゴールに迫る
と書くと、よりサッカー感が増すと思います。
「ゲーゲンプレスの要約ですよ」と言われても、あまり違和感がないのではないでしょうか?
また『ペース&スペース』という言葉で、スペースの重要性を説いています。
立ち位置でディフェンダーを困らせるという意味では、『ポジショナルプレー』とも似ているのかな?と思いました。
ユーティリティー性
ペースアップに伴って、「求められる選手の変化」についても紹介されています。
最も長く親しまれてきたポジションの区分けは、ポイントガード、シューティングガード、スモールフォワード、パワーフォワード、センターの5つだろう。しかし、現代のNBAではオールラウンダーが増え、ポジションごとの境界線が非常に曖昧だ。
(中略)しかし、NBA選手の役割で見るポジションの概念は、ピック&ロール で起点となり相手を崩す「ボールハンドラー」、 3ポイントショットやカッティングプレーなどを得意とする「ウイング」、主に献身的なスクリーナーとなりピック&ロールでボールハンドラーのパートナー役を担う「ビッグマン」の大きく3つに分けられる。
これまでは5つのポジション表記が当たり前でしたが、3つに減ったとのことです。
最近のサッカー日本代表のポジションも「MF/FW」と書いていて、区別が無くなっています。
これらの方向性もサッカーとの共通点が多いと感じました。
ヨハン・クライフさんが活躍したトータルフットボールの時代にも「選手の万能性」は求められていました。
本当は戦術についての考えはあまり明かしたくないんだ。何といっても私の企業秘密だからね。しかし絶対に言えることはフィールドではどの選手もすべてのポジションでプレーできる力を身につけるべきだということだ。これは、頭で考えたわけじゃなくて、実戦から学んだことだ。
『美しく勝利せよ』より
しかし、当時は一芸に秀でる選手も重宝されてきた印象です。
現代に向かって「ポリバレント」、「マルチロール」と言葉を変えながら、万能な選手がより求められる傾向です。
現代サッカーでは、同じ論理がすべての事柄に当てはまるようになってきています。グッドプレイヤーを形成している種々の要素、スピード、フィジカル、テクニック、創造性、運動量、メンタリティなどを考えると、「どれかではなくどれも」が重要になってきているのです。しかも、そうした中で、とりわけ際立った武器を生かして、個人が輝くだけでなく、当然のようにチームの勝利に貢献することも求められる。それが、世界的な潮流なのです。
『サッカープレーヤーズレポート 超一流の選手分析術』より
それを端的に著したのが、フィリップ・トルシエさんの言葉「8人の明神と3人の天才がいればチームは完成する」だと思います。
万能で献身的なプレーが特長の明神智和さんを、非常に重宝していたことが伺えます。
バスケットボールでもサッカーでも万能な選手が求められている環境で、必要な能力として「走る」、「スタミナ」が挙げられるようになりました。
やはり「ペース&スペース」時代の戦いに順応した結果だろう。リーグがアップテンポになればなるほど、コート上の全員が素早いスプリントができること、そして走り続けられるスタミナが必要になってくる。長身でもこのスピードについていけない選手は淘汰されてしまう。
J1リーグでも、スプリント回数や走行距離が公開されるようになり、選手の評価の一部になっている節があります。
「走れること」、「アスリートであること」が、より求められてきているとも感じます。
ゴールがあり、得点を競うという共通点はありますが、異なるスポーツでも方向性は同じであることに驚きました。
選手にスペースを与える考え方
前述した『ペース&スペース』の考え方は、アメリカンフットボールから来たと書かれています。
2011年のNBAファイナルに破れるとNBA切っての知将でもあるスポールストラヘッドコーチは友人のNFLコーチが指揮するアメリカンフットボールの練習を見学に行く。そしてそこで伝えられたとされるのが”一流のアスリートを解放するにはペースとスペースが必要なんだ”ということ。
事実、アメリカンフットボールでは、『スプレッドオフェンス』というフィールドを幅広く使うオフェンス戦術=1人あたりのスペースを広げる戦術が主流になってきています。
アメリカンフットボールでは、「オフェンスの選手を広く配置すると、ディフェンスの選手も広く配置する」必要があります。
バスケットボールも同様の考え方で、スペースを作っていると思います。
同じ考え方がサッカーにも通用するか?は微妙かもしれません。
ディフェンス側は、「オフェンス側にスペースと時間を与えない」という考え方です。
一方で、オフェンス側は、選手を広く配置することが唯一の正解ではないと思います。
広く配置して攻撃する戦術もあれば、狭く配置して攻撃する戦術もあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
ただし、大きい距離で囲むサッカーには落とし穴があります。本来はパスコースを作るための陣形なのに、「ピッチを広く深く使う」こと自体が目的になってしまうと、選手同士が分断されてしまうんです。
足が止まってパスコースを作るための動き直しをやらないと、ただ開いて立っているだけの状態になります。そうするとボール保持者が孤立し、相手のプレッシングの餌食になる。パスコースも少ないので、カットされやすくなります。『風間八宏の戦術バイブル サッカーを「フォーメーション」で語るな』より
「オフェンス側の適切な距離感が異なる」ことは、サッカーの特徴なのかもしれません。
しかし、多くのスポーツ(球技)が同じ方向性で進んでいると理解しました。
他の球技がどのような方向性なのか?にも興味が出てきました。
ポイント:オブストラクションにならないピック&ロール?
バスケットボールでは数的優位を作り出す方法として、『ピック&ロール』が使われるようです。
本書の解説は、ピック&ロールの解説に多くのページを割いています。
サッカーではセットプレーで考え方を流用できる程度でしょうか?
セットプレー、特にコーナーキックをマンツーマンで守っている場合には、マーカーを引き剥がす方法になるのでしょうか?
セットプレーで、オフェンス側の選手がディフェンス側の選手の進路に入ると、高い確率でインピード(オブストラクション)の反則になると思います。
Jリーグ公式Youtubeでも取り上げられていました。
しかしながら、選手同士が混ざり合う中での接触は避けられない側面もあり、線引きが難しいグレーゾーンもあるように感じます。
バスケットボールだけでなく、他のスポーツからの知識が、新たなトレンドになるのかな?と思いました。
(VAR導入で反則に厳しくなっていることもあるので、難しいかもしれません)
yas-miki(@yas-miki)