セットプレーに関する本を読みました。
サッカーファンですので、セットプレーが大事だということは分かっています。
しかしセットプレーの戦術や方法論の知識がありません。
普段の観戦でもセットプレーで観ていることは、守備側がマンツーマンか?ゾーンか?ということで、後はエリア内の個人の駆け引きのみです。
この本を読むと、潜在的に思っていたセットプレーの知識が体系化されました。
本書のシステム表記には、大きな衝撃を受けました。
次のサッカー観戦のセットプレーでは、システム表記に倣って、プレーヤーの数を数えることから始めたくなります。
Contents
購入の経緯
2年前くらいに本屋で見かけたのが本書です。
本の帯に書いてあった
セットプレー=年間15得点のストライカー
というコピーに魅かれ買いました。
年間15得点のストライカーを連れてくることは、非常に難しいでしょう。
しかしセットプレーに特化して15点獲れば、同じだけの効果があるという主張です。
J1だと年間34試合のリーグ戦があり、カップ戦が加わります。
またJ2だと年間42試合のリーグ戦にカップ戦が加わります。
カップ戦は勝ち上がれば、試合数が増えるので、各クラブ均一ではありません。
おおよそ年間50試合前後になるのかな?という感覚です。
年間15得点ということは、3試合に1点ペースです。
かなり強力な武器になります。
セットプレーで年間15得点を実現するには、どんな方法があるのか?という疑問への答えを求めて購入しました。
本書の対象者
本書は、『footballista』という海外サッカー専門誌の連載を書籍化した本でした。
サッカー雑誌ですので、コアな人が読む内容が多いです。
書籍なので、動画がなく、文字を追いながらセットプレーのシーンを想像する必要があります。
セットプレーのシーンを想像できるか?が鍵になります。
サッカー観戦初心者だと、少し分かりにくいかもしれません。
サッカー経験者やサッカー観戦歴の長い方だと、ある程度サッカーに関する知識があります。
そういったサッカーに詳しい人は、目から鱗が落ちるように感じると思います。
またセットプレーの視点も大事だと思います。
セットプレーの時に、キッカーが蹴るボールを周辺視野で捉え、ボールが飛ぶ先(主にゴール前)を主に観ることが必要になります。
自分はコレができるようになるのに時間がかかりました…
この視点を獲得することは、必須ではありません。
しかしボールのないゴール前を観られる人でないと、本書を理解しにくいのは確かです。
サッカー観戦のレベルアップに繋がる本なので、サッカー観戦初心者でも読んで損はないとは思います。
セットプレーとは
本の中で、セットプレーの定義はありません。
一般にセットプレーと言うと、得点・失点の可能性が高くなるゴール前FKやCKです。
本書では、プレーが止まった後に、リスタートするプレーがセットプレーとしています。
サッカーでは、ボールがピッチを出るか、反則が起きないとプレーが止まりません。
この考えに倣うと、コーナーキック(CK)やフリーキック(FK)、ペナルティーキック(PK)、ゴールキック、スローイン、キックオフ等が、セットプレーに当たります。
本書ではゴールキーパー(GK)からの(オンプレー中の)リスタートも、セットプレーの1つと考えているのは新鮮でした。
手元にあるバスケットボールの本の言葉を紹介します。
オフェンスの体制を整えて行うオフェンス戦術「セットオフェンス」
体制を整えるプレー=セットプレーという理解なのかな?と思っています。
その意味では、野球やアメフトはセットプレーの連続だと思います。
そうは言っても、セットプレーに特化した本です。
得点・失点に直結するフリーキックやコーナーキックに関する記述が多くなっています。
個人的に最も印象に残ったフレーズです。
セットプレーは、試合の中のもう一つの試合。そこではゲームのルールも、選手のポジションや役割も、そしてシステムや配置もまったく別のものに変わる。
近年では、サッカーに詳しくない人でも戦術への関心が高まっているように感じます。
自分も観戦時には試合の流れを把握するために、両チームの狙い(=戦術)を気にしています。
両チームの狙いが分かった上で、各選手が狙いを『どう裏切るか?』がサッカー観戦の楽しみでもあります。
『そのような戦術論とは違う世界がセットプレーだ』という主張です。
ポイント1: 体系化されたセットプレーの知識
著者の2人によって、セットプレーが体系化されています。
セットプレーについて、何となく分かっていたこと、思っていたことへの答えが書いてあるように感じました。
新しい知識はもちもんですが、「あ~そういうことか~」と納得することが多かったです。
著者の1人ジョバンニ・ビオさんは、銀行に勤めるアマチュアコーチだった時に、『得点力+30%』という本を書いたそうです。
その本が止まり、イタリアサッカーのレジェンドであるワルテル・ゼンガさんの目に、プロサッカーへの道が拓かれたそうです。
本を書くためには、自分の持っている知識を体系化する必要があります。
一度本を書いていることが、本書の分かりやすさの要因だと思います。
また世界初のセットプレー専門コーチで、知識を伝えることに長けていることも、本の内容を分かりやすくしています。
もう1人の著者である片野道郎さんが、サッカー雑誌の連載のためにテーマを決めていたそうです。
連載で一つ一つの章が分かれているため、より体系化しやすいのかもしれません。
セットプレーをあらゆる角度から斬り込む片野さんのサッカー眼が素晴らしいです。
少しずつセットプレー理論を噛み砕きながら、一冊読むと全体が分かる構成になっています。
ポイント2: セットプレーの斬新なシステム表記
サッカーの戦術を語る上で、『1-4-4-2』や『1-3-4-2-1』といった数を使ったシステム論が多く使われます。
テレビ中継でも扱われることが多いですので、市民権を得て来た印象です。
説明の必要がないかもしれませんが、(ディフェンスラインの人数)ー(ミッドフィルダーの人数)ー(フォワードの人数)を表しています。
私はGKも数えて『1-』から始めます。
これと同じように『1-5-4』や『2-5-3』という数を使ったシステム表記をセットプレーにも導入しています。
サッカーファンであっても、セットプレーで数字を使ったシステム表記は知らないのではないでしょうか?
(ボール周辺の人数)ー(ペナルティーエリア内の人数)ー(後方の人数)を数字で表しています。
本を読み始めた頃は、初めて見る表記に慣れませんでした。
しかし流れの中のシステム論と同様にスタート位置を整理すると、詳しくなれそうです。
実際の試合で確認しながら理解を深めたいと思いました。
試しにセットプレーに注目して1試合観戦してみました。
それまで何気なく観ていたセットプレー(主にコーナーキック)には、色々な戦術が散りばめられていることが分かりました。
先程紹介した通り。本書では、(ボール周辺の人数)ー(ペナルティーエリア内の人数)ー(後方の人数)でシステム表記していました。
自分でセットプレーに注目すると、(ペナルティーエリア内の人数)を(ゴールエリア内の人数)と(ペナルティースポット付近の人数)に分けた方が理解が進む気がしました。
システム表記を意識して、セットプレーのスタート位置を把握することで、違ったサッカー観戦になります。
ポイント3: セットプレーに特化する難しさ
セットプレーに関する本ですので、プレーを設計するという机上の話が多いです。
しかしジョバンニ・ビオさんのコーチ経験が、机上の話をピッチに落とし込んでくれます。
競り勝って違いを作り出すのはやはり個人の力
結局はボスである監督のスタンス次第
こんな言葉で、セットプレー専門コーチの限界を教えてくれます。
特に監督がセットプレーに特化した練習をすることに対して、どういうスタンスなのか?が非常に大事だということです。
セットプレーに興味の薄い監督では、セットプレーを練習することすら難しいということです。
この悟りが本書にリアリティと説得力を与えているように感じました。
『言うは易く行うは難し』という言葉が、セットプレー界?にも存在することを教えてくれます。
セットプレーが大事だと言うことは簡単ですし、サッカーファミリー共通の認識だと思います。
しかし、セットプレーの準備時間(=練習時間)を多くするという行動に移しにくい現実があるようです。
セットプレーをチームの中で、どう位置づけるのか?が非常に重要です。
素晴らしく体系化されたセットプレーの方法論に、あまり光が当たらないことの原因に感じました。
本書を読んで感じたこと: セットプレーを進化されられるのは、下位カテゴリー?
セットプレーの重要性は、様々なデータで紹介され、サッカーファンの常識とも言えます。
特にワールドカップ等のトーナメントで強調されるように感じています。
しかし、重要であるセットプレーを進化させるチームは、多くないようです。
では『どのチームが進化させる可能性を持っているのか?』という問いがあります。
個人的には、トーナメントが多く、練習時間が確保しやすい学生サッカーが第一候補だと思います。
数年前の高校選手権決勝で、東福岡高校が見せたトリックプレーは、サッカーファンの脳裏に焼き付いているでしょう。
立正大淞南高校もセットプレーに変化をつけるチームとして定着しているでしょう。
またセットプレーの連続とも言えるアメフトでは、新しい戦術はカレッジ(大学)フットボールから始まる傾向が強いです。
カレッジフットボールで成功した戦術を、プロであるNFLが導入する流れになっています。
同じように、新たなセットプレーの動きも学生サッカーから生まれるかもしれません。
このことは本書でも触れられています。
もう一つ学生サッカーを推す理由があります。
それは他のスポーツの知識を取り込みやすいことです。
本書でも次のようなフレーズがあります。
戦術的プロセスを設計する際のキーワードは、「スペース」と「タイミング」だ。
「スペース」と「タイミング」を扱う球技は、他にもあります。
特にバスケットボールは、その代表格でしょう。
またハンドボールやアイスホッケー、アメフトには大きな可能性があると思います。
多くの競技が混在する学生スポーツであれば、他スポーツとの連携が取りやすいでしょう。
またJリーグでも、J3であれば年間の試合数が少ないです。
平日にカップ戦を戦うJ1より、セットプレーの練習に割く時間があるかもしれません。
中断期間がないとはいえ、週1試合が多いJ2にも可能性があるかもしれません。
戦力が拮抗しているリーグですので、セットプレーで先んずれば、『昇格』という大きな成果が得られるでしょう。
松本山雅はセットが得意な印象がありますし、もっと特化したクラブが出てくると、日本サッカー界も変わるという印象です。
ロシアワールドカップでは、セットプレーからベルギーの超高速カウンターに沈みました。
仮に日本中でセットプレーの精度を上げる取り組みが進んだとします。
その未来には、ワールドカップで同じ状況になった場合にセットプレーからサヨナラゴールを奪って、日本が勝つ日が来るかもしれません。
まとめ
『セットプレー=年間15得点のストライカー』というフレーズに魅かれて買った本です。
文字だけでセットプレーのシーンを想像できる層がターゲットだと感じました。
その層には、衝撃の多い内容が詰まっています。
セットプレーで何となく感じていたことが、言語化・体系化されています。
セットプレーの知識が整理されていきます。
数を使ったシステム表記は、新鮮な考え方です。
セットプレーのスタート位置を把握することが、セットプレーへの理解を深めるきっかけになります。
キッカーだけでなく、ゴール前の状況も整理してセットプレーを観ると、ピッチ上の世界が変わると思います。
yas-miki(@yas-miki)