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フロンターレが描いたプロスポーツの理想像とは? ~僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ~
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川崎フロンターレが2020年のJ1リーグを優勝したこともあり、改めて川崎フロンターレの本を読み返しました。

川崎フロンターレは、現在クラブが強いことを差し引いても余りあるくらい地域密着のフロントランナーという印象です。

 

著者の天野さんが登壇された講演に行ったことがありますが、示唆に富んだ話が多いと感じました。

本書も、フロンターレ成功のエッセンスが詰まっていて、ピッチ外のサッカー観戦が楽しくなるだと思います。

 

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購入の理由

 

9年くらい前に買った本ですので、購入した理由は覚えていません。

本を知っていて買ったのか?本屋で衝動買いしたのか?分かりません。

 

タイトルの『僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ』に興味を持ったのは間違いありません。

川崎フロンターレが算数ドリルを筆頭に、他のクラブとは違ったコトをしていることは、知っていましたので、どんな考え方なのか?知りたかったのだと思います。

 

サッカー界では、スタジアムグルメイベントが定着してきた時期ですので、その知識を得たかったことも、購入の理由でしょう。

読んだ後には、本書のタイトルまで巧妙に仕掛けられた罠だったのかな?と思いました。

 

対象読者

 

プロサッカークラブの川崎フロンターレに関する本ですが、ピッチ上の話はあまり登場しません

 

クラブとして、ホームタウンの川崎市でファンを獲得するためのプロモーションについての本です。

そのためサッカーの知識は、さほど必要ないと思います。

 

つまり特定の対象読者がいる訳ではなく、全ての人に向けた本と言えます。

本書で紹介されている事例を通して、どうアイディアを出せばいいのか?どうアイディアを形にするのか?を学べるので、ビジネスパーソンに刺さりやすいでしょう。

 

 

ポイント1: 試合結果に頼らないプロモーション

 

川崎フロンターレはプロサッカークラブですので、最も注目を集めるのは、試合結果(できれば試合内容)です。

この記事を書いている2020年は、試合結果・内容ともに申し分ないサッカーでした。

 

しかしながら、ピッチ上で起こることだけを売りにすることは、極めて不確実性が高いと言えます。

本書では、色々なモノに例えて、ピッチ上で起きることは、言わば『水物』であることを紹介しています。

 

それは"スタジアム観戦に付加価値をつける"ことだ。メインディッシュは試合であることは間違いない。ただ、料理と試合が大きく異なるのは、メインディッシュが"すごく美味しくなるときもあれば、もう二度と食べたくないと思うこともある"ということだ。優勝するクラブは試合の勝ちが多いわけだから、メインディッシュが"美味しい"ことが多いが、優勝するクラブは世界中どこのリーグでも一クラブだけであるリーグのほとんどのクラブが勝ったり負けたりであり、下位のクラブは"美味しくない"メインディッシュをお客様に提供し続けなければならない。

 

 

リーグ戦を戦っていれば、あまり勝てないクラブも存在するという、当たり前の事実ですが、自分には抜け落ちていた考え方です。

 

Jリーグは、海外に比べ戦力が均衡していると言われ、ネームバリューのあるクラブでも降格することが珍しくないです。

ネームバリューのあるクラブであっても、美味しくないメインディッシュを提供することがあるため、全クラブが強力なサイドディッシュを整備する必要があるのではないか?と思います。

 

時代の要請もあってか?各クラブでスタジアムグルメやイベントなどソフト面に力を入れた結果、Jリーグの観戦環境は、年々良くなっているように感じます

 

AC長野パルセイロ イベント

 

フクダ電子アリーナ スタジアムグルメ

 

個人的に非常に心に残っている言葉があります。

 

アメリカでスポーツビジネスに携わっている人にどんな商売をしているのかと尋ねる、誰もが口を揃えてこう答える、試合観戦日の経験(game-day experience)を売る商売だと。つまり、「見せる」スポーツで取り扱われる商品は「試合」ではなくて試合観戦を通して得られる「経験」だと捉えるべきなのだろう。

 

 

そして人に時間やお金、情熱を使ってもらい、楽しい経験を売る事でもあります。

サッカー観戦という経験を売るのであれば、90分の試合観戦だけを売る必要はないと感じました。

 

プロサッカークラブを取り巻く環境について、別の本から引用します。

 

プロスポーツチームが、当時の神奈川県には6つあった。(中略)ベルマーレがホームタウンを置く平塚の市民には、スポーツ観戦の選択肢がこれだけあったのだ。プロスポーツだけではない。夏のレジャーとして海水浴が加わる。横浜のみなとみらい地区のような観光スポットも、東京都内へも、東海道線でアクセスできる。都市の再開発や交通網の整備によって、商圏のボーダーレス化が加速しているのだ。

 


 

本書だけでなくクラブのプロモーションでは、他のサッカークラブだけでなく、他のスポーツ、映画やテーマパークが競合という考え方が主流です

 

この記事も、無料とは言え、読んでいる方の時間を使ってもらう意味では、サッカークラブの競合かもしれません。

 

先程の湘南ベルマーレのホームタウンにある平塚駅から、川崎フロンターレのホームタウンにある川崎駅まで、電車で1時間もかかりません。

そのため置かれた環境は、川崎フロンターレも湘南ベルマーレと同じでしょう。

 

とても多くの競合がいる環境を、川崎フロンターレが勝ち抜く様々な考え方を紹介している本だと感じました。

 

ポイント2: 他人事ではない強み

 

多くの競合がいる環境で、選ばれる存在であるために、根幹になる考え方が印象に残っています。

 

関わる人に、"他人事ではない"と思わせるかどうかが企画を成功に導くために大事なことだなと実感した。それがコツではないかと。つまり、ただお金を出してほしいだけでなく、お金を出すことでみんなが幸せにな気分を味わえる。

 

他人事ではない』というフレーズが大事だと思います。

 

以前、東京ヴェルディの試合を観に行った時に、『他人事ではない』雰囲気があり、とても感動しました。

 

 

クラブ主導ではなく、サポーター体験を募集していたり、スポンサー紹介で1社1社に拍手をしたり、次のホームゲームの告知をしたり…

クラブスタッフと一緒になって(ある意味ではクラブスタッフの一員として…)東京ヴェルディというクラブを盛り上げていました。

 

そういったサポーターの活動を観ると、俺のヴェルディというチャントがすんなり入ってきました。

またスタッフの親切さも素晴らしいと感じます。(比較対象が少ないですが…)

 

奇しくも本書では、川崎でのヴェルディは、全く違った紹介のされ方です。

 

聞こえてきたのは、スーパースターを集めてJリーグ草創期に最強といわれたヴェルディ川崎のこと。ヴェルディは、プロ野球でいう読売ジャイアンツのような存在だった(そういえば、当時の親会社は同じ読売新聞社だった)。全国の有名クラブということで、ホームタウンである川崎にはほとんど目を向けていなかったようだ。行く先々で「あの頃のヴェルディは許せない」という声を聞いた。

 

ヴェルディのホームタウン活動に良いイメージを持っていない方は、自分を含めて少なくないと感じます。

良いイメージがなかったからこそ、味の素スタジアムの雰囲気に感動しました

 

たまたま2018年シーズンのホーム最終戦で、セレモニーがありました。

社長挨拶でも、『一時期は厳しかった』という趣旨の言葉がありました。

 

『どん底』があったからこそ、クラブに関わる人が変わったのかもしれません。

本書では、フロンターレもJ2降格という『どん底』がきっかけとなり、変わっていったと紹介されています。

 

しかし、環境が変わったことで、全員が危機感を持ちクラブと選手の関係をしっかり見つめ直すことにつながったのだから、どん底に落ちることも大事なことなのかもしれない。

 

2020年シーズンは、コロナウイルス影響で大きく減収となり、サッカー界(というより世界全体)が『どん底』に沈んでいると思います。

未来から振り返ると、2020年シーズンはサッカーやスポーツの在り方が見直される機会になるかもしれません。

 

本書を読み返すと、初めて読んだ時とは異なる考え方のリンク、発見があります。

 

ポイント3: 理念に立ち返る

 

本書は、多くのプロモーション成功事例を紹介しています。

一方で、根幹となる考え方は、クラブの理念を理解することでした。

 

まず、クラブは理念を持つべきだ。"なぜ、クラブがこの街に存在するのか?"その答えがはっきりしていなければ、ホームタウンが盛り上がる(と思う)プロモーションをどんなに仕掛けても反響はそれほど返ってこない。

 

堅苦しくも感じる理念ですが、噛み砕くとソリューションが見えてくる過程に感動しました。

 

Jリーグは、かつてのプロ野球やアメリカのプロスポーツの様なフランチャイズの移転は、ほぼ無いと言えます。

その意味では、クラブのスタートからホームタウンに根ざしているのかもしれません。

 

しかしホームタウンで受け入れられるには、ホームタウンにクラブがある『意味』を提示する必要があると感じます。

 

多くのクラブにとって、スタジアム建設や改修には自治体のサポートが必須でしょう

 

町田GIONスタジアム ビジョン

 

自治体の立場に立てば、サッカークラブの要請で税金を投じるには、市民への説明が必要になります

サッカーに興味のない市民にも、サッカークラブは街に貢献していることを示さなければ、理解は得られないと思います。

 

クラブが羅針盤のような理念を持つことの価値を教えてくれるように感じました。

 

2020年のJリーグは、大きな軌道修正が必要になりました。

リーグ戦が中断している時に、村井チェアマンは、Jリーグの理念に沿って今後の方針を説明していました。

 

 

また先程引用した本は、アメリカンフットボールのNFLを対象にして、Jリーグが参考になるアメリカプロスポーツの先進事例を紹介しています。

その本の中でも、冒頭は日本人のスポーツ観Jリーグの理念を噛み砕くことにページを割いています。

 

 

一般のファンには縁遠く感じますが、理念はクラブやリーグの運営には欠かせないことを学びました。

 

ポイント4: 徹底したローカライズ

 

今では当たり前のように感じてしまうフロンターレの『川崎』での先進事例ですが、徹底ぶりがスゴいと思いました。

ヴェルディという、ある種の反面教師がいたとは言え、どう川崎の街に溶け込むのか?を徹底しています。

 

サッカーだけをやるためにフロンターレは川崎に存在しているわけではない

という言葉に集約されているように感じます。

 

特に行政である川崎市に、フロンターレを認めさせる施策が多く、非常に勉強になります。

本書のタイトルでもある算数ドリルの事例は、最たる事例でしょう。

 

また、選手との契約にまで踏み込んでいるのは新たな発見でした。

 

しかし、フロンターレの場合は選手との契約書に"ホームタウン活動は無償で参加する"の一文が入っている。「ホームタウン活動の一環です。出演、協力料などは発生しないのでご理解ください」

 

フロンターレが川崎市にあることで、クラブも行政も地域も幸せになれることを学べます。

 

フロンターレのホームゲームでは、選手入場前に川崎市民の歌を歌います。

 

最初にスタジアムで聴いた時は、『ローカライズ戦略』なのかな?と思いました。

どんな経緯でスタートしたか?分かりません。

しかし何度も聴いていると、戦略』ではなく、『日常の延長』に感じるようになりました

 

この日常の延長』が、本当の意味で地域に『根づいた』と言えるのでしょう。

どうやって根づかせるのか?という取り組みにも興味を持てる一冊です。

 

本書を読んだ後は、『スタジアムまでの道中で、クラブが街に溶け込んでいるか?』『イベントで地域色が出ているか?』という視点でサッカー観戦するようになりました。

 

クラブと地域の関わりは、現地=スタジアムに行かないと分からないことが多いです。

そのためスタジアムでのサッカー観戦の楽しみ方の1つかな?と思います。

 

まとめ

 

プロサッカークラブのプロモーションに於いて右に出る本はないくらいの名著です。

 

『ピッチ上の試合結果』という極めて不確実性の高いものだけに、お客さんの満足度を預けることなく、ファンを増やす取り組みは、読んでいて痛快です。

本書中の”サッカーだけをやるためにフロンターレは川崎に存在しているわけではない”という文には感銘を受けました。

 

サッカー観戦にプロモーションという全く新しい視点を与えてくれます。

 

yas-miki@yas-miki

 

 

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