『解説者のコトバを聴けばサッカーの観かたが解る』という本を読みました。
サッカー中継の解説にスポットを当てる珍しい本です。
NHK-BSと民放地上波が中継した実際の試合について、実況、解説を書き起こした対比は、とても面白いです。
スポーツファンからは嫌われがちな地上波ですが、地上波の役割や狙いを整理すると、中継内容への感じ方が変わってきます。
自分オリジナルのサッカー観を育てることに役立つと感じました。
購入の理由
本書を購入したのは数年前ですので、正確には覚えていません。
書店で本書を見たときに、タイトルが珍しく、目次から読み取れる内容もオリジナリティーを感じました。
解説者がサッカーの観方を紹介する観戦術を扱った本は多く発売されていますし、好きな分類の1つです。
しかし解説者の役割やタイプを紹介する本はあまり無いように思います。
またNHK-BSと民放地上波の実況・解説を比較した章は、本書の大きな特長で、非常に面白い視点でした。
対象読者
サッカーの解説を取り扱った本で、ある程度のサッカーの知識は必要になります。
特にNHK-BSと民放地上波の実況・解説を比較した章は、実際の放送の書き起こしがあります。
そのため詳細まで理解しようとすると、サッカー中継の内容・用語が理解できるくらいのサッカーの知識が必要です。
サッカーの知識は必要と書きましたが、戦術書や技術書ではないので、平易なサッカー用語で書かれています。
ジャーナリストの方が書いた本なので、非常に文章が読みやすいです。
また、サッカー以外のスポーツファンにも刺さるとも思いました。
民放地上波とNHK-BSやNHK地上波、CSで中継スタイルが異なり、民放地上波に対してネガティブな意見が出るというのは、サッカーに限った話ではないと思います。
そういった競技のファンに対しても、本書の主張は、納得感の強いでしょう。
ポイント:サッカーにおける民放地上波の役目を知ると面白くなる
個人的には、NHK-BSと民放地上波の実況・解説を比較した章が一番興味深く、勉強になりました。
サッカーファンには、民放地上波を嫌う方もいるでしょうし、自身もその1人です。
代表のフレンドリーマッチを初め、民放地上波しか選択肢のない試合も多数あり、その度に「マジか…」と少し落胆します。
15年くらい前に、テレビ朝日の実況・解説にイライラして、無音で90分観戦したことがあります。
またアメリカンフットボールや野球、フィギュアスケートなどを観戦する際も、「民放地上波はうるさいから、やっぱりCSやNHKの方がいいな」と思います。
同じような思いをする方もいらっしゃるのではないでしょうか?
スポーツファンが民放地上波がうるさいと感じる要因を、本書では都並さんの言葉で、下記のように紹介しています。
地上波の場合は、一般の方がテレビをつけてくださった時に、「盛り上がってるな、面白そうだな」と感じてもらうことが、そのままフックになって数字を引っ張ることになる。大事なのは熱ですね。グワーっと。それを考え出して、体現したのが松木安太郎さん。盛り上がっていると人が観る。それが大事なことなんですよ。
とても納得感の強い言葉です。
サッカーファンは、最初からサッカーの試合を観る気でテレビの電源を入れています。
しかし、一般の視聴者には放送中の番組の中からサッカーの試合を選んでもらわなければいけません。
テレビ局も営利企業ですので、多くの人に観てもらう必要があります。
そしてサッカー中継を選んでもらうために、試合の盛り上がりを、言わば『演出』しているのでしょう。
試合を盛り上げる『演出』を、サッカーファンは余計に感じるようです。
本書では、同じ試合の中継で、NHK-BSと民放地上波の実況・解説を書き起こして、それぞれの狙いを分かりやすく紹介されています。
文字にして見ると、民放地上波もマトモな指摘が多く、「民放地上波って意外に悪くないな」という感想を持ちました。
そして、オリンピックで自分がよく知らない競技を観る場合は、民放地上波ような実況・解説を受け入れていることを思い出しました。
民放地上波で『演出』がある理由を理解すると、実況・解説の狙いが見えるので、格段に中継が観やすくなります。
個人的には、サッカーの試合で戦術に重きを置いて観ている場合に似ていると思います。
ポイント:解説によって自分オリジナルのサッカー観を育てる
NHK-BSと民放地上波の実況・解説を比較した章を読んでみて、どちらの放送(実況・解説)を観るか?は視聴者次第だなと思いました。
当たり前の考えですが、サッカーの視聴経験や視聴人数、その日の気分など、それぞれの視聴者が持っているサッカーの観方で左右されます。
本書でも、いろいろな解説の役割を紹介しています。
「解説」にはニーズに応じて様々な手法がある。まずは、1つひとつのプレーを説得力あるコトバで表現するプレー解説の手法がある。あるいは、試合の流れから先の展開や監督の交代カードを予測する俯瞰解説の手法もある。そのほかにも、観戦に役立つ試合の背景的エピソードや情報を伝える知識解説といった手法もある。注目度の高い代表戦などでは、現地のムードを日本に伝える応援解説の役割を期待されることもあるだろう。
どの種類の解説が好きか?を考えながらサッカー中継を観ていると、自分のサッカー観がはっきりしてくるでしょう。
自らに当てはめると、俯瞰解説を好む傾向がとても強いです。
よく読むサッカー関連本のジャンルも、戦術に関する本の比率が多くなります。
本書で紹介されていた、俯瞰解説の言葉も面白かったです。
解説者は、基本的に90分のサッカーを解説するわけですが、指導者の場合は1週間・168時間という長い尺度で観ているという視点もありますよね。
他の種類の解説も楽しめますが、今の自分には俯瞰解説がハマります。
また、以前に、『アナリシス・アイ ~サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます~』という本を読んだときに、自分オリジナルのサッカー観を育てることが重要だと感じました。
本書を読んでいても、同じことを思いました。
オリジナルのサッカー観を育てるために、解説者の想い・狙いを知ることができる本書は役立つはずです。
yas-miki(@yas-miki)