『J2論』という本を読みました。
ジェフ千葉の監督を務めた江尻監督の言葉を借りると『特殊なセカンドディビジョン』であるJ2に特化した本です。
現役で横浜FCに在籍して活躍している松井選手が著者であることの特徴がよく出ています。
分かりやすくJ2事情を語っていますし、海外の2部リーグとの違いは、とても興味深いです。
本書の特徴やポイントだと思ったこと、感想を紹介します。
Contents
購入の理由
サッカー関連の本を探す場合に、Amazonと大型書店を併用しています。
定期的にAmazonのおすすめ順を見たり、大型書店のサッカー関連本コーナーで新刊を見たりしています。
それらとは違い、本書は近所の書店の店頭に並んでいるのを見つけたのが出会いでした。
『読みたいと思ったサッカー関連本は、とりあえず買う』ようにしています。
絶版になったり、店頭やネット書店で在庫切れになったり、入手困難になることがあるためです。
ジェフ千葉のシーズンシートを持っていますし、J2の試合観戦が多いので、J2に特化した本に興味を持ちました。
松井大輔選手が書いているというのも、購入理由です。
日本サッカーのスター選手が、J2をどう捉えているのか?どう料理するのか?に焦点を当てて読みました。
Jリーグ全体を対象にして、Jリーグの魅力を伝える本が、類書に挙げられます。
ガイドブック的に魅力を伝える本や紀行文的に魅力を伝える本などがあります。
しかしJ2に特化した本は、見たことがありませんでした。
J2に特化している点が、本書のオリジナリティだと思います。
本書の対象読者
J2にスポットを当てた本ですが、サッカーに関する知識は、さほど必要ではないでしょう。
2019年にテレビ番組『ジャンクSPORTS』 でJ2特集が放送されました。
その番組で紹介されていた内容もあり、サッカーを知らない人にJ2の特徴を知ってもらう内容になっています。
新書で発売されているため、世間一般の人を対象にしている印象です。
そのためコアなサッカーファンには、やや物足りないかもしれません。
しかし契約に関わることや海外の2部リーグ事情は、希少な情報で面白かったです。
ポイント1: J2について新たな知識が得られる
J2は2部リーグであるが故に、予算規模や環境、メディアへの露出といった点で、J1と格差があります。
その格差について、具体例を出しながら、分かりやすく紹介していました。
コアなサッカーファンには知られた内容かもしれませんが、改めて読むと「そんなこともあるのか~」と思うポイントもありました。
読む人によって、面白く感じるテーマが異なると思います。
それくらい多くのことが紹介されています。
横浜FCの選手が支給されるユニフォーム
個人的には、横浜FCを事例にした支給されるユニフォームが面白く感じました。
横浜FCは支給される2枚がどちらも半袖で、長袖のユニフォームはない。
長袖のレプリカユニフォームを売っているクラブもあるので、長袖のユニフォームはあって当たり前という感覚でした。
選手に支給するユニフォームにも長袖がないというのは、自分にとっては衝撃的でした。
外国人選手の契約内容
サッカーファンとして試合を観ていると、年俸や移籍金についての情報は入ってくることがあります。
しかし、チームと結んでいる契約内容について、考えることはありません。
本書では、外国人選手を雇う場合のコストについて紹介されていました。
家賃のクラブ負担や自動車の支給、出身国との往復航空券などが契約に盛り込まれるため、トータルでの出費はかなり大きなものになる。
読んでみると、契約に盛り込まれていても不思議でない内容です。
とは言え、初めて考えさせられる情報ですので、興味深いです。
日本人選手が海外でプレーする場合は逆の立場だと紹介されています。
つまり自国の選手より高コストであるという環境に見合う結果を残さないといけないのは、自分には欠けていた視点でした。
そのポイントを突いて育成している興國高校の内野監督の言葉を紹介します。
日本人が海外でプレーするときは基本的に助っ人なので、その国の選手よりも秀でている部分がないとダメですよね。なぜなら自国人と同じレベルの選手を、高いお金を払い、外国人枠を使って獲得する意味がないからです。
海外挑戦が当たり前になっていますが、助っ人外国人として海外へ渡るというのは難しいことだと改めて思いました。
選手のオフから見るJ2のスケジュール
J2は中断期間がなく毎週のように試合が組まれていることは知っています。
しかし選手のスケジュールについて考える機会はありませんでした。
通常時は、 オフが1か月で4日未満になるチームもあるので、会社としてはちょっとブラック企業かもしれない。
試合を観る側からすると、毎週試合があることは楽しみです。
その反面、選手がもらえるオフの日数(1ヶ月で4日未満)で考えると、なかなか厳しいスケジュールだと思いました。
2020年シーズンは、毎週試合が組まれているだけでなく、ミッドウィークにも試合があり、よりハードになっています。
クラブによってはオフが、ほぼ無くなる時期もあるのかな?と考えると、メンタル面の休養も大事になると改めて感じました。
世間一般の会社を平均した場合、週休1日なのか?2日なのか?は分かりません。
週休2日の会社も多いことからすると、シーズン中のJリーガーは休みの少ない職業だと知りました。
本書の表紙にも書かれている『世界一過酷なリーグ』について引用します。
J2は全国に22チームあり、試合間隔の短さと移動距離の長さから『世界一過酷なリーグ』とも言われている。
本書を読むまでは『世界一過酷な』というワードに違和感がありました。
では海外の2部リーグはどうなのか?について詳しく紹介されていました。
ポイント2: 新鮮な海外の2部リーグ事情
海外サッカーをほとんど観ないので、そもそもの知識が薄いまま本書を読みました。
そのため2部リーグに関する情報はゼロと言ってもいいくらいでした。
著者の松井選手が、海外で最初にプレーしたのがフランスということで、フランスの情報が比較的多いです。
厳しい競争社会
『海外は競争が厳しい』という何となくの知識を持っていました。
選手・監督のモチベーションの根底が紹介されていました。
共通しているのは、みんながとにかく野心家であること。チームとしてまとまって1部昇格を目指すよりも、個人としてどれだけ実績を積み上げられるかに重きを置いている。
日本でも、上位カテゴリーのクラブに引き抜かれる『個人昇格』というワードの存在感が増しています。
そうは言っても、『クラブとしてJ1へ』と考えているクラブは、まだまだ多いと思っています。
おそらく競争力が拮抗していて、今シーズンはどこがJ1昇格戦線に残るのか?分からない期待感が、そうさせていると感じています。
海外では『個』の意識が高く、レベルの高い『個』の集団がチームという考えを印象付けられたフレーズでした。
また競争の内容が面白く感じました。
ただしサッカーに関しては、日本人の想像以上にフィジカルが重要視される。とにかく局面での1対1に勝たないことには話にならない。1対1で勝てない選手は試合に使われないので、対面する選手とのマッチアップは冗談抜きに"生存競争"だ。
フランスでキャリアを築いたハリルホジッチ監督が『デュエル』を強調したのが、思い出されました。
『デュエル』がフィジカルを重視したものか?は微妙なのかもしれませんが、目の前の1対1に勝つことを求めていることには違いありません。
日本でクラブワールドカップが開催された際に、スタジアムで観戦しましたが、南米から来たファンからも『1対1に負けてはいけない』雰囲気を感じました。
日本でサッカーを観ていると、攻守に連動することが求められていると思います。
しかし連動するサッカーだとしても、1対1に勝つことはサッカーの根源的な要素だと改めて感じました。
海外クラブの環境の違い
ピッチ上のサッカーだけでなく、クラブについても多くの違いが紹介されています。
個人的には、クラブの会長についての記述が面白く感じました。
そして契約書に明記されていないことを主張する時は、クラブの会長に直談判するのが最も手っ取り早い。(中略) 海外では、会長がクラブの顔として君臨している。監督やゼネラルマネージャーはその下で支えている人間に過ぎない。
Jリーグを観ていると、フロントの代表は社長で、オーナーや会長といった存在は稀でしょう。
シーズン初戦や最終戦の挨拶も、監督やキャプテンと並んで社長が務めることが多いです。
一方、海外だと他のスポーツを含めて強力な権限を持つオーナーや会長がいます。
会長に直談判というのが、とても珍しく映りました。(ややコミカルにも感じます)
また施設についての記述を引用します。
それが所属1年目に昇格を果たすと、翌年以降はクラブを取り巻く環境が劇的に変化していった。(中略) 前提として、日本と違って土地が余っているので、お金さえあれば何でもできる。
日本(特に都市部)に住んでいると、土地が余るという感覚が全くないと思います。
そのため『お金があれば何でもできる』というイメージが、あまり湧きません。
しかし地方都市を本拠地とするクラブが増え、日本全体として少子高齢化が進むと、海外に似た感覚になるのかな?と考えるようになりました。
あまり意識しなかった視点をもらった気がしました。
こういった日本と海外の違いを紹介できるのも、両方でプレーした経験を持つ松井選手だからでしょう。
他にも興味深いポイントがたくさんありました。
本書を読んで感じたこと: J2であることの重要性
Jリーグの歴史を振り返ると、10クラブの1リーグから始まりました。
その後、Jリーグに参入するクラブが増え、2部リーグであるJ2、3部リーグであるJ3が創設されました。
J1をトップとするピラミッドを作ると、当たり前ですが2部リーグがあります。
2部リーグのJ2を観ていて、『ローカルなホームタウンへの愛着』と『世界への入口が共存している』ように感じます。
ローカルなホームタウンへの愛着
J1に比べると、J2は地方の中小都市をホームタウンとしているクラブが多い印象です。
J3の場合、その色合いが濃くなる印象です。
地方のホームタウンに行くと、街にクラブが溶け込んでいると感じます。
他のJリーグクラブが少ない、また他のプロスポーツクラブが少ないという要因もあるかもしれません。
また都市部のクラブでも、同じ都道府県内の市町村単位、同じ街でもローカルな地域単位までローカライズしています。
そういった『ローカルなホームタウンへの愛着』は、Jリーグの宝だと思います。
J2のクラブでも、強烈なホームタウンへの愛着を感じます。
ホームタウンの価値について印象に残っている一節があります。
プロチームは子どもたちの憧れであり、地域の誇りである。(中略)プロチームまで含めた地域のスポーツクラブは、地域のスポーツコミュニティを作る。だからこそ、地域行政もスポーツクラブを支援するのである。
スポーツ・マーケティングの専門家ビル・サットン教授(セントラル・フロリダ大学)によれば、プロスポーツチームのファンは三つの投資をするという。一つはお金、一つは時間、そしてもう一つは感情である。三つめの感情をどんなときでも投資してもらえるようなしくみ作りをするうえで、鍵となるのがホームタウンなのである。
理念的な価値と経済的な価値を端的に表しています。
地方都市をホームタウンとするクラブが多いJ2だから、より強く感じることだと思います。
世界への入口としてのJ2
またローカルな地域から世界が見え始めているようにも感じます。
J1でも上位争いをするクラブであれば、ACLが現実のものとして見えています。
戦力が拮抗しているJリーグで、J1に在籍していれば、ACL出場圏内を目標に掲げるクラブも少なくありません。
また近い将来に海外挑戦するであろう選手や海外で実績のある選手が多いので、世界も見えているように感じます。
一方J2では、J1のクラブほど世界を意識したクラブは多くありません。
しかし野心的な目標として、世界を意識した言葉を掲げるクラブがあります。
最も端的な言葉は、柏レイソルのホーム、三協フロンテア柏スタジアムに掲げられている『柏から世界へ』という言葉でしょう。
柏レイソルがJ2で戦った2019年シーズンでも、掲げられていました。
また2019年に大きな批判を浴びたFC町田ゼルビアの名称変更ですが、経営陣は世界を意識した時に東京というブランドを利用したい意向だったと思います。
前述の『ローカルなホームタウンへの愛着』と二律背反であり、多くのサポーターから支持されませんでした。
しかしクラブとして世界へ出るという野心的な概念『だけ』は、評価できるのではないか?とも思います。
ジェフ千葉の過去の監督就任レポートを追った記事でも、関塚監督が就任した際にACL優勝という言葉が出てきました。
J2で戦うことを、世界への入口と捉えることもできます。
昇格できればJ1というJ2ならではの距離感で、J2の価値だと感じます。
まとめ
J2というニッチなテーマを、新書の分かりやすさで紹介する希少な本でした。
現役選手だからこそ伝えられる魅力が詰まっていました。
また海外との違いを語れるのは、著者が松井選手だからこそです。
本書に書かれている端々の言葉が、その他の情報源から得られる知識とリンクしていると感じます。
J2であることの重要性を考えさせられる本でした。
yas-miki(@yas-miki)